東京地方裁判所 平成8年(行ウ)27号 判決 1998年10月30日
東京都渋谷区南平台町一九番一七号
原告兼亡北内由布子承継人
北内妙子
東京都渋谷区広尾四丁目一番一六―一一〇一号
原告
網谷宏子
右両名訴訟代理人弁護士
伊東眞
東京都渋谷区宇田川町一番一〇号
被告
渋谷税務署長 下条親紀
右指定代理人
田中芳樹
同
木上律子
同
横尾輝男
同
松本好正
主文
一 被告が、原告北内妙子の平成三年四月一〇日相続開始に係る相続税につき平成五年六月二九日付けでした更正のうち課税価格一四一億六〇一四万九〇〇〇円、納付すべき税額一六億六三三二万一六〇〇円を超える部分及び同年九月一三日付けでした右更正に係る過少申告加算税賦課決定のうち二億一八五四万八五〇〇円を超える部分を取り消す。
二 被告が、北内由布子の平成三年四月一〇日相続開始に係る相続税につき平成五年六月二九日付けでした更正のうち課税価格四七億一三二七万五〇〇〇円、納付すべき税額三二億四七九八万八二〇〇円を超える部分及び同年九月一三日付けでした過少申告加算税賦課決定のうち二億四五三二万円を超える部分を取り消す。
三 被告が、原告網谷宏子の平成三年四月一〇日相続開始に係る相続税につき平成五年六月二九日付けでした更正(ただし、平成八年一〇月一七日付けの再更正により減額された後のもの。)のうち課税価格四六億一九五五万六〇〇〇円、納付すべき税額三一億三一二三万八三〇〇円を超える部分及び同年九月一三日付けでした過少申告加算税賦課決定(ただし、平成八年一〇月一七日付けの変更決定により減額された後のもの。)のうち二億三九八七万円を超える部分を取り消す。
四 原告らのその余の請求を棄却する。
五 訴訟費用は、これを八〇分し、その一を被告の、その余を原告らの各負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 被告が、原告北内妙子の平成三年四月一〇日相続開始に係る相続税につき平成五年六月二九日付けでした更正のうち課税価格四〇億一八二八万円、納付すべき税額二億〇六三二万三四〇〇円を超える部分及び同年九月一三日付けでした右更正に係る過少申告加算税賦課決定を取り消す。
二 被告が、北内由布子の平成三年四月一〇日相続開始に係る相続税につき平成五年六月二九日付けでした更正のうち課税価格一八億九五八四万円、納付すべき税額一二億六一五六万八八〇〇円を超える部分及び同年九月一三日付けでした過少申告加算税賦課決定を取り消す。
三 被告が、原告網谷宏子の平成三年四月一〇日相続開始に係る相続税につき平成五年六月二九日付けでした更正(ただし、平成八年一〇月一七日付けの再更正により減額された後のもの。)のうち課税価格一七億二八一四万五〇〇〇円、納付すべき税額一一億五〇〇一万一五〇〇円を超える部分及び同年九月一三日付けでした過少申告加算税賦課決定(ただし、平成八年一〇月一七日付けの変更決定により減額された後のもの。)を取り消す。
第二事案の概要等
一 事案の概要
本件は、平成三年四月一〇日に死亡した亡北内正男(以下「亡正男」という。)の共同相続人である原告北内妙子(以下「原告妙子」という。)、原告網谷宏子(以下「原告宏子」という。)及び亡北内由布子(以下「亡由布子」といい、右三名を「本件相続人ら」という。)が亡正男の死亡に伴う相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税について申告したところ、右申告に係る各課税価格の計算において、北辰不動産株式会社(以下「本件会社」という。)の株式(以下「本件株式」という。)の価額が過少に評価されていることを理由として、被告が本件相続人らに対し平成五年六月二九日付けで更正を、同年九月一三日付けで過少申告加算税の賦課決定をそれぞれ行ったのに対し、これを不服とした本件相続人らが申告額を超える部分に係る右各処分の取消しを求める事案である。なお、亡由布子は本件訴訟の継続中である平成九年三月一一日死亡し、原告妙子が相続により亡由布子の本件訴えに係る原告としての地位を承継した。
二 法令の規定等
1 相続税法(以下「法」という。)二二条では、相続により取得した財産の価額は、原則として、当該財産の取得の時における時価によるものとされている。
2 そして、右の評価に関して、相続税財産評価に関する基本通達(昭和三九年四月二五日付け直資五六、直審(資)一七。だたし、本件に適用されるのは国税庁長官通達(平成三年一二月一八日付け課評二―四、課資一―六)による改正前のもの。以下「評価通達」という。乙第一号証)及び毎年各国税局長が定める相続税財産評価基準(以下「評価基準」という。)が定められている。
評価通達において、時価とは、相続により財産を取得した日等の課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、評価通達の定めによって評価した価額によるとされ(評価通達一(2))、株式の価額は、銘柄の異なるごとに一株単位で評価することとされており(評価通達一六八)、取引相場のない株式(上場株式及び気配相場等のある株式以外の株式をいう。)の価額は、評価しようとする株式の発行会社(以下「評価会社」という。)を事業規模に応じて大会社、中会社、小会社に区分し(評価通達一七八。なお資本金が一億円以上の会社は大会社に該当するとされている。)、それぞれの区分に応じて、以下のとおり評価するものとされている(評価通達一七九)。すなわち、大会社の株式は、原則として、「類似業種比準方式」(評価会社の配当、利益及び純資産の各要素を評価会社と事業内容が類似する上場会社のそれらの平均値と比較の上、上場会社の株価に比準して評価会社の株式の一株当たりの価額を算定する方法をいう。評価通達一八〇)により評価し、小会社の株式は、原則として、「純資産価額方式」(評価会社の課税時期現在における各資産を評価通達に基づいて評価した合計額から各負債の額の合計額を控除して、純資産の金額を算出し、さらに、右金額と帳簿価額から算出された純資産の金額との差額に対する法人税額等相当額を控除した額を発行済株式総数で除して、一株当たりの価額を算出する方式をいう。評価通達一八五)により評価することとされ、中会社の株式については、大会社の評価方法と小会社の評価方式の「併用方式」によって評価すると定められている。
なお、評価通達に定める純資産価額方式による場合には、貸倒引当金、退職給与引当金、納税引当金その他の引当金及び準備金に相当する金額は負債に含まれないこととし、<1>課税時期の属する事業年度に係る法人税額、事業税額、道府県民税額及び市町村民税額のうち、その事業年度開始の日から課税時期までの期間に対応する金額、<2>課税時期の直前に終了した事業年度の利益処分として確定した配当金額及び役員賞与のうち、課税時期において未払のもの、<3>被相続人の死亡により、相続人その他の者に支給することが確定した退職手当金等の金額は負債に含めることとされている(評価通達一八六)。
また、評価通達は、平成二年八月三日付け直評一二、直資二―二〇三による一部改正後のものであるが、課税時期において、評価会社の有する各資産を評価通達に定めるところにより評価した価額の合計額のうちに占める土地等(土地及び借地権などの土地の上に存する権利)の価額の合計額の割合が大会社においては七〇パーセント以上、中会社においては九〇パーセント以上の評価会社(以下「土地保有特定会社」という。)(評価通達一八九(2))の株式の価額については、純資産価額方式により評価することとされている(評価通達一八九―三)。ただし、課税時期における評価会社の株主のうち、株主の一人及びその法人税法施行令四条に規定される同族関係者の有する株式の合計数がその会社の発行済株式数の三〇パーセント(その評価会社の株主のうち、株主の一人及びその同族関係者の有する株式の合計数が最も多いグループの有する株式の合計数が、その会社の発行済株式数の五〇パーセント以上である会社にあっては、五〇パーセント。)以上である同族株主以外の株主等が取得した株式及び中心的な同族株主(課税時期において同族株主の一人並びにその株主の配偶者、直系血族、兄弟姉妹及び一親等の姻族(これらの者の同族関係者である会社のうち、これらの者が有する株式の合計数がその会社の発行済株式数の二五パーセント以上である会社を含む。)の有する株式の合計数がその会社の発行済株式数の二五パーセント以上である場合におけるその株主をいう。)のいる会社の株主のうち、中心的な同族株主以外の同族株主の取得した株式には配当金額から還元評価することとされている(評価通達一八八、一八八―二)。
三 争いのない事実等
1 当事者等
(一) 原告妙子は亡正男の死亡当時、同人の妻であり、原告宏子及び亡由布子は原告妙子と亡正男の間に出生した子である。亡正男は、平成三年四月一〇日死亡し、本件相続が開始した。
(二) 本件相続により取得された財産は、別表4順号1ないし7記載のとおりであり、亡正男の死亡前三年以内に同人から原告宏子及び亡由布子が贈与され、及び著しく低い価額の対価で譲渡を受けたものとして法七条の規定により贈与とみなされ、平成六年法律第二三号による改正前の法一九条の規定に基づき、原告らの課税価格に加算される金額(別表4順号16)の内訳は、別表5記載のとおりである。
(三) 本件会社は、不動産賃貸を主な営業活動として行う会社であり、本件相続が開始する直前の決算期である平成二年二月一日から平成三年一月三一日までの決算期末(以下「本件直前期末」という。)において、本件会社の資本金は一億円、発行済株式総数は二〇万株であり、うち一四万株(七〇パーセント)を亡正男が、うち二万株を北辰キャピタル有限会社(以下「北辰キャピタル」という。)がそれぞれ有していた。
なお、北辰キャピタルは、亡由布子が代表取締役を務め、その出資金総額三〇〇万円のうち二五〇万円を原告妙子が出資していた。
(四) 本件相続により、本件会社の発行済株式総数二〇万株のうち、原告妙子が九万株を、北辰キャピタルが二万株を、亡由布子及び原告宏子がそれぞれ二万五〇〇〇株ずつを所有することになった。
なお、本件相続の開始日において、本件会社の定款により、本件株式には譲渡制限が付されていた。
2 本件訴訟に至る経緯等(甲第一号証、第八号証、乙第五号証)
(一) 本件相続人らは、本件相続に係る相続税につき、平成三年一〇月七日、別表1ないし3の各順号1記載のとおり期限内申告を、平成四年二月二四日、別表1ないし3の各順号2記載のとおり修正申告をそれぞれ行い、原告妙子及び亡由布子は平成五年五月一一日、別表1、2の各順号3記載のとおり、それぞれ再修正申告を行った。
(二) 被告は、平成五年六月二九日、本件相続人らに対し、別表1、2の各順号5、別表3の順号3各記載のとおり更正及び過少申告加算税賦課決定を行い、同年九月一三日、別表1の順号8、別表2の順号7、別表3の順号5各記載のとおり右各更正に係る過少申告加算税の変更決定を行い、さらに、原告宏子の本件相続に係る相続税については、平成八年八月三〇日、別表3の順号10記載のとおり、同年一〇月一七日、別表3の順号11記載のとおり、それぞれ再更正及び過少申告加算税賦課決定の変更決定をした(以下、平成五年六月二九日付け各更正のうち、原告妙子に対するものを「原告妙子に対する本件更正」と、亡由布子に対するものを「亡由布子に対する本件更正」と、原告宏子に対するもの(ただし、平成八年一〇月一七日付け再更正により減額された後のもの。)を「原告宏子に対する本件更正」といい、これらを合わせて「本件各更正」といい、また、平成五年九月一三日付け各過少申告加算税の変更決定のうち原告妙子に対する本件更正に係るものを「原告妙子に対する本件賦課決定」と、亡由布子に対するものを「亡由布子に対する本件賦課決定」と、原告宏子に対するもの(ただし、平成八年一〇月一七日付け変更決定により減額された後のもの。)を「原告宏子に対する本件賦課決定」といい、これらを合わせて「本件各賦課決定」といい、さらに、本件各更正と本件各賦課決定を合わせて「本件各処分」という。)。
(三) 本件各処分に関する不服申立ての経緯は別表1ないし3記載のとおりであり、本件相続人らは、平成八年二月一三日、本件各訴えを提起した。
(四) なお、平成五年七月八日、本件会社の定款変更により株式の譲渡制限に関する定めが廃止され、同月二七日付けで本件相続人らは、被告に対し、本件相続に係る相続税の納付のため、本件株式四万一三〇〇株の物納申請を行った。右株式は、平成六年三月一〇日付けで物納が許可され、同年三月一四日に国に収納された。
本件会社の平成九年四月一〇日付け第三三期定時株主総会招集通知には、同月二五日開催の株主総会の議題として、定款変更し、本件株式の譲渡制限を定めることが挙げられていた。国は、同月二一日付けで、本件株式に譲渡制限を付すことに反対である旨を本件会社に対し書面で通知し、同月二五日に開催された株主総会においても、同様に反対である旨の意思表示をしたが、本件株式譲渡制限のための定款変更決議がされた。
国は、平成九年五月六日付けで株式買取請求書を本件会社に送付し、同年六月一六日付けで、本件株式四万一三〇〇株を、四億六八三〇万〇七〇〇円(一株当たり一万一三三九円)で本件会社に売却した。
3 被告が行った本件各処分の根拠
被告が主張する本件相続に係る本件各処分の根拠は別表4ないし8記載のとおりであり、その内訳は次のとおりである。なお本件各処分の根拠のうち、争いがあるのは、本件株式の評価額の点のみであり、その余の点については当事者間に争いがない。
(一) 本件各更正の根拠
(1) 課税価格の合計
本件相続人らが相続により取得した財産の価額は別表4の順号1ないし8記載のとおり(このうち本件株式に係る価額は同表の順号4記載のとおりである。)であり、債務等の価額は同表の順号9ないし14記載のとおりであって、本件相続人らの差引純資産価額の合計額を二〇九億〇三四六万五〇二五円と算出し、これに亡由布子及び原告宏子が亡正男から死亡の三年以内に贈与を受けた価額の合計額二七億八七四七万五九七八円(その内訳は別表5のとおりであり、このうち本件株式に係る価額は同表の順号8記載のとおり二六億六六五六万円である。)を加えて課税価格の合計額を二三六億九〇九四万円(国税通則法(以下「通則法」という。)一一八条一項に基づき一〇〇〇円未満の端数を切り捨てたもの。)と算出した(別表4順号17)。
(2) 本件相続人らの課税価格
原告妙子の本件相続に係る相続税の課税価格は、原告妙子に係る別表4の順号1ないし7記載の本件相続により取得した財産の価額の合計額一四六億五二六三万八五三四円(このうち本件株式に係る価額は同4記載のとおり一二〇億四四五二万円である。)から同9ないし13記載の各債務等の価額の合計額三億六五二二万八八五七円を控除し、通則法一一八条一項の規定により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた一四二億八七四〇万九〇〇〇円である(同17)。
亡由布子の本件相続に係る相続税の課税価格は、亡由布子に係る別表4の順号1ないし7記載の本件相続により取得した財産の価額の合計額三六億五四八八万七〇九一円(このうち本件株式に係る価額は同4記載のとおり二〇億〇七四二万円である。)から同9ないし13記載の各債務等の価額の合計額三億円を控除した額に前記三年以内贈与加算額一三億九三七三万七九八九円(同16)を加え、通則法一一八条一項の規定により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた四七億四八六二万五〇〇〇円である(同17)。
原告宏子の本件相続に係る相続税の課税価格は、原告宏子に係る別表4の順号1ないし7記載の本件相続により取得した財産の価額の合計額三七億六一一六万八二五七円(このうち本件株式に係る価額は同4記載のとおり二〇億〇七四二万円である。)から、同9ないし13記載の各債務等の価額の合計額五億円を控除した額に前記三年以内贈与加算額一三億九三七三万七九八九円(同16)を加え、通則法一一八条一項の規定により一〇〇〇円未満の端数を切り捨てた四六億五四九〇万六〇〇〇円である(同17)。
(3) 納付すべき相続税額
右課税価格の合計額二三六億九〇九四万円から平成四年法律第一六号による改正前の法一五条に従い、遺産に係る基礎控除として四〇〇〇万円と亡正男に係る法定相続人数である三を八〇〇万円に乗じて算出した二四〇〇万円との合計額である六四〇〇万円(別表6順号2)を控除して、課税遺産総額二三六億二六九四万円を求め(同3)、これに本件相続人らの各法定相続分(原告妙子につき二分の一、亡由布子及び原告宏子につき各四分の一ずつ。)を乗じて、法定相続分に応ずる取得金額を算定し(同5)、右金額につき、平成四年法律第一六号による改正前の法一六条所定の率を適用してそれぞれ算出した額を合計して相続税の総額一六三億二八二五万八〇〇〇円を求め(同6)、法一七条に従い、右相続税の総額に本件相続人らの課税価格の合計額に占める割合を乗じて、本件各相続人らの相続税額を原告妙子につき九八億四七一六万〇九九五円、亡由布子につき三二億七二八四万四九八四円、原告宏子につき三二億〇八二五万二〇二一円と算出した(同7)。
そして、原告妙子について、右相続税額九八億四七一六万〇九九五円から配偶者の税額軽減の規定(平成六年法律第二三号による改正前の法一九条の二)を適用して八一億六四一二万九〇〇〇円(別表7順号5、別表4順号20)を控除し、通則法一一九条一項を適用して、納付すべき税額を一六億八三〇三万一九〇〇円と算出した(別表4順号21)。
亡由布子については、右相続税額三二億七二八四万四九八四円から、贈与税額控除の規定(平成六年法律第二三号による改正前の法一九条)を適用して六万四七〇〇円を控除し(同19)、通則法一一九条一項を適用して、納付すべき税額を三二億七二七八万〇二〇〇円と算出した(同21)。
原告宏子については、別表8記載のとおり、租税特別措置法の一部を改正する法律(平成八年法律第一七号)附則一九条三項の規定に基づき算出した算出税額限度額三一億五六〇四万八〇〇〇円と前記相続税額三二億〇八二五万二〇二一円と比較して少ない金額である算出税額限度額三一億五六〇四万八〇〇〇円から、贈与税額控除の規定(平成六年法律第二三号による改正前の法一九条)を適用して六万四七〇〇円を控除し(別表4順号19)、納付すべき税額を三一億五五九八万三三〇〇円と算出した(同21)。
(二) 本件各賦課決定の根拠
(1) 原告妙子に対する本件賦課決定の根拠
原告妙子は、本件相続に係る相続税の課税価格及び納付すべき税額を過少に申告しており、過少に申告したことについて通則法六五条四項に規定する正当な理由も存しないと認め、原告妙子に対する本件更正により新たに納付すべき税額一四億七六七〇万円(通則法一一八条三項の規定により一万円未満の端数を切り捨てた後のもの。)に通則法六五条一項の規定により一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出した一億四七六七万円と、同条二項の規定により原告妙子の期限内申告税額を超える部分に相当する税額一四億七六七〇万円(通則法一一八条三項の規定により一万円未満の端数を切り捨てた後のもの。)に一〇〇分の五の割合を乗じて算出した七三八三万五〇〇〇円を合算した二億二一五〇万五〇〇〇円を原告妙子の本件相続に係る相続税の過少申告加算税額とした。
(2) 亡由布子に対する本件賦課決定の根拠
亡由布子は、本件相続に係る相続税の課税価格及び納付すべき税額を過少に申告しており、過少に申告したことについて通則法六五条四項に規定する正当な理由も存しないと認め、亡由布子に対する本件更正により新たに納付すべき税額二〇億一一二一万円(通則法一一八条三項の規定により一万円未満の端数を切り捨てた後のもの。)に通則法六五条一項の規定により一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出した二億〇一一二万一〇〇〇円と、同条二項の規定により亡由布子の期限内申告税額を超える部分に相当する税額九億五八三七万円(通則法一一八条三項の規定により一万円未満の端数を切り捨てた後のもの。)に一〇〇分の五の割合を乗じて算出した四七九一万八五〇〇円を合算した二億四九〇三万九五〇〇円を亡由布子の本件相続に係る相続税の過少申告加算税額とした。
(3) 原告宏子に対する本件賦課決定の根拠
原告宏子は、本件相続に係る相続税の課税価格及び納付すべき税額を過少に申告しており、過少に申告したことについて通則法六五条四項に規定する正当な理由も存しないと認め、原告宏子に対する本件更正により新たに納付すべき税額二〇億〇五九七万円(通則法一一八条三項の規定により一万円未満の端数を切り捨てた後のもの。)に通則法六五条一項の規定により一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出した二億〇〇五九万七〇〇〇円と、同条二項の規定により原告宏子の期限内申告税額を超える部分に相当する税額八億五九七〇万円(通則法一一八条三項の規定により一万円未満の端数を切り捨てた後のもの。)に一〇〇分の五の割合を乗じて算出した四二九八万五〇〇〇円を合算した二億四三五八万二〇〇〇円を原告宏子の本件相続に係る相続税の過少申告加算税額とした。
(三) 本件株式の価額の算定方法
(1) 本件会社を、不動産賃貸を主な営業活動とし、課税時期における資本金を一億円であると認め、評価通達一七八に定める「大会社」に該当すると判断した。
(2) 本件直前期末における貸借対照表に記載された各資産の価額を別表9のⅠ中資産の部順号1ないし29の相続税評価額のとおりと認め、その価額の合計額(総資産価額)は九二六億九六三〇万六〇〇〇円(別表9のⅠ記載<1>の金額)であり、そのうち土地等の価額の合計額は七〇六億一三四七万二〇〇〇円(別表9の1の資産の部順号11、14及び22の相続税評価額の合計額)であって、総資産価額に占める土地等の価額の割合は、七六パーセント(小数点未満切り捨て)と認め、本件会社を、評価通達一八九(2)に定める土地保有特定会社に該当するものと認めた。
(3) 本件会社は、本件相続の開始日現在、二〇万株の株式を発行しており、亡正男からの相続により、右株式のうち一四万株(発行済株式総数の七〇パーセント)を本件相続人らが有することとなった会社であり、本件相続人らは、中心的な同族株主に該当するものと認め、本件相続人らが取得した本件株式は「同族株主以外の株主等が取得した株式」(評価通達一八八)に該当しないものと認めて、本件株式の価額を、以下のとおり、評価通達一八九―三の規定に従い評価通達一八五に定める純資産価額方式により評価することとした。
(四) 本件株式の一株当たりの価額
本件会社について、本件直前期末から相続開始日(平成三年四月一〇日)の間に著しい資産変動が認められないことから、本件直前期末の貸借対照表に基づいて一株当たりの純資産価額の計算を行うこととし、本件株式の課税時期現在の一株当たりの純資産価額は、後記(1)の金額から(2)及び(3)の金額を控除した金額(別表9のⅢ記載<9>の金額)を本件会社の発行済株式総数である二〇万株で除した金額一三万三八二八円(別表9のⅢ記載<11>の金額)とした。
(1) 本件会社の各資産の相続税評価額の合計額(別表9のⅠ記載<1>の金額)
九二六億九六三〇万六〇〇〇円
右金額は、本件会社の本件直前期末における各資産を評価通達に基づいて評価した金額(別表9のⅠ中資産の部順号1ないし29の相続税評価額)の合計額である。
(2) 本件会社の各負債の相続税評価額の合計額(別表9のⅠ記載<3>の金額)
三九六億一八七四万六〇〇〇円
右金額は、本件会社の本件直前期末における各負債の金額(別表9のⅠ中負債の部順号1ないし21の相続税評価額)の合計額である。
(3) 評価差額に対する法人税額等に相当する額(別表9のⅢ記載<8>の金額)
二六三億一一七六万九〇〇〇円
右金額は、次のアの金額からイの金額を控除した金額に五一パーセントを乗じて計算した金額である。
ア 相続税評価額による純資産価額(別表9のⅡ記載<5>の金額)
五三〇億七七五六万円
右金額は、本件会社の本件直前期末における各資産を評価通達の定めにより評価した価額の合計額(別表9のⅠ記載<1>の金額)から本件直前期末における各負債の金額の合計額(同<3>の金額)を控除した金額である。
イ 帳簿価額による純資産価額(別表9のⅡ記載<6>の金額)
一四億八五八五万五〇〇〇円
右金額は、本件会社の本件直前期末における各資産の帳簿価額(別表9のⅠ中資産の部順号1ないし29の帳簿価額)の合計額(別表9のⅠ記載<2>の金額)から本件直前期末における各負債の金額の合計額(同<4>の金額)を控除した金額である。
4 純資産価額方式と固定資産税・都市計画税
(一) 本件会社の、平成三年四月一〇日現在の未納固定資産税及び都市計画税は合計二億八二七九万七〇〇〇円であった。
(二) 被告の採用した純資産価額方式の適用に当たっては、評価時点以前に賦課期日のあった右固定資産税及び都市計画税の合計二億八二七九万七〇〇〇円を未納公租公課として負債の部に計上すべきであったが本件各処分における本件株式の評価に当たっては、それが計上されていなかった。
第三争点に関する当事者の主張
一 本件の争点
本件の争点は本件株式一株当たりの価額であり、これに関する争点は以下の三点である。
1 本件株式一株当たりの価額の評価方法(純資産価額方式の合理性の有無)
2 純資産価額方式によった場合に貸倒債権として資産勘定から控除すべき債権の有無
3 本件株式一株当たりの時価
二 当事者の主張
1 本件株式の一株当たりの価額の評価方法(純資産価額方式の合理性の有無)
(被告)
(一) 法二二条にいう「時価」の意義
法二二条にいう時価とは、相続開始時における当該財産の客観的な交換価値をいうものと解されているが、客観的な交換価値が必ずしも一義的に確定されるものではないことから、課税実務においては、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地から見て、評価通達及び評価基準に定められている評価方法により画一的に相続財産を評価することとしている。したがって、右評価方法によらないことが正当として是認され得るような特別な事情がある場合は別として、本件相続人らが亡正男から相続等により取得した当該相続財産も右の評価通達、評価基準に基づき評価することが相当である。
(二) 評価通達の適用について
(1) ところで、評価通達は、相続財産を適正に評価することのほか、<1>客観的な交換価値より高い評価をしないようにするという評価の安全性を図ること、<2>課税の公平のために評価の統一を図ること、<3>納税者の便宜のため簡便な評価方法によることなどを理念とするものであるが、これらの評価の安全性、統一性、便宜性等を偏重しすぎると、ある種の財産について、その評価額と実際の取引価額との間に不当な開差を生じさせ、右開差を利用した租税回避行為の原因にもなりかねないこと、さらに、当時の株式取引価格の変動には著しいものがあったことなどから、課税の公平にかんがみ、このような不当な開差を是正するとともに、株式取引の実態により適合するように評価の一層の適正化を図る目的で、平成二年八月三日付け直評一二・直資二―二〇三をもって評価通達の一部改正が行われ、土地保有特定会社の株式の価額の評価方法が新たに定められたのである。
(2) すなわち、土地保有特定会社は、保有土地等の総資産に占める割合が著しく、資産内容が土地等に偏っていることから、土地保有特定会社の株式の取引価格の決定に際し、当該会社の資産内容(特に、土地等の資産価値)に着目した取引がなされると見込まれるので、株式の会社資産に対する持分としての性質に着目した純資産価額方式により評価することとしたものである。したがって、純資産価額方式の適用を原告が主張するような節税目的のための会社の株式に限るとする趣旨ではない。
(原告ら)
土地保有特定会社の株式を純資産価額方式により算定することと定めた評価通達は、課税要件を変更するものではなく、株式の評価方法を定めた国税当局の内部通達であり、従前用いられてきた方式では低額にすぎ、正確な評価結果を算定し得ない事案につき、新たに適用する方式を付け加えたものである。すなわち、純資産価額方式は、評価会社が、不動産の賃貸利用を営業目的としていないにもかかわらず、土地を資産として保有し、近い将来この土地を換価してその株主が処分益を得ることを予定しているような、節税目的で設立、運営されている会社に適用することを想定して定められたものであり、継続を予定している会社が、その保有している土地の換価を予定しておらず、会社存続中は、これを事業の用に供し続けることが明白であるような場合に、これを適用することは、純資産価額方式を設けた趣旨に反する。
特に、本件会社は、ビル賃貸を主たる目的とする株式会社であり、その保有する土地の大半は、賃貸用ビルの敷地の用に供されている事業用資産であって、棚卸資産のように処分を予定するものではなく、また、この事業用資産を用いた事業が継続されていたのであるから、清算処分価額を前提とする純資産価額方式は不適切であり、しかも、かかる営業店舗の賃借人は、借地借家法等による保護を受けており、容易に退去させることができないのであるから、不動産の賃貸を主として営む会社においては、不動産の賃貸収入及び経費の増減が株価の決定要素となるのであって、その保有する不動産の価格をもって、その株価を算定し得ないというべきである。
したがって、本件株式の評価に当たっては、純資産価額方式を採用するのは誤りであり、類似業種比準方式によるべきである。
2 純資産価額方式によった場合に貸倒債権として資産勘定から控除すべき債権の有無
(原告ら)
本件会社が平成三年四月一〇日当時、株式会社マリンシステム研究所(以下「マリンシステム研究所」という。)に対して有していた貸付金債権一〇億八四八五万二二一三円及び株式会社アルファクレスト(以下「アルファクレスト」という。)に対して有していた貸付金債権九億四二二〇万六九〇〇円は、同年一月三一日現在、本件会社の貸付金として計上されていたが、右評価基準時には、いずれも回収不能となっていたから右各債権の合計二〇億二七〇五万九一一三円を資産勘定から控除すべきである。なお、マリンシステム研究所は平成三年五月三一日に解散し、右各債権額は、本件会社の平成五年二月一日から平成六年一月三一日までの事業年度に係る債権償却特別勘定繰入額として東京国税局長から認められた。
(被告)
金銭債権については、債権者に債権を回収する意思があり、債務者にこれに応ずる意思があれば、破産等によって弁済が禁止されたものでない限り、直ちに、債権の回収が不可能となるものではない。
本件会社がマリンシステム研究所及びアルファクレストに対して有していた債権の一部が回収不能であり、右回収不能金額を控除すべきであるとする原告らの主張は、本件会社が後に債権回収の意思を放棄し、回収不能であることが認められたことから、それ以前においても回収不能であり、貸倒債権であったと評価すべきであるとするにすぎず、本件相続開始日において、右各債権が回収不能に陥っていたと客観的に認識することはできない。
3 本件株式一株当たりの時価
(原告ら)
(一) 類似業種比準方式及び類似会社比準方式について
類似会社比準方式、類似業種比準方式とは、評価対象となる株式に取引相場があれば、どの程度の取引価格になるかを類似性の高い上場会社の株式相場あるいは類似性の高い業種の会社に係る株式相場の平均値と比準して算出する方法であり、類似会社比準方式の具体的算出方法は別紙1のとおりである。
右各評価方法は、評価会社に比準するもととなる会社又は比準するもととなる業種の代表的な会社として選出された会社が評価会社と類似しているならば、極めて妥当な評価方式である。
そして、右各評価方法により、評価した本件株式の時価は、次のとおり、本件各処分における本件株式の評価額一三万三八二八円と比較して著しく低額であり、このことからも、純資産価額方式が実態にそぐわない評価方式であることは明らかというべきである。
(1) 類似業種比準方式による本件株式一株当たりの時価
本件会社の主たる営業内容は、不動産賃貸業であり、評価通達で使用される類似業種の大分類一〇五番(不動産賃貸業)の課税時期の属する月の前々月の平均株価六九三円(額面五〇円)と、中分類一〇六番(不動産賃貸業)の同平均株価一三七四円(額面五〇円)を類似業種の平均株価とし、双方から比準された株価のうち、低い方の評価額である一万九七三九円(額面五〇〇円)が類似業種比準方式によった場合の本件株式の評価額というべきである。
(2) 類似会社比準方式による本件株式一株当たりの時価
本件会社の類似会社であるダイビル株式会社(以下「ダイビル」という。)と株式会社サンケイビル(以下「サンケイビル」という。)の本件課税時期における一株当たりの株価(いずれも額面五〇円)は、ダイビル一四一〇円、サンケイビル一二七〇円であり、両者の算術平均値は、一三四〇円であり、本件会社と右各会社の純利益、純資産を比較して得られた本件株式の評価額は、一株当たり三万四九五〇円(額面五〇〇円)である。
(二) 取引先例方式による本件株式一株当たりの時価について
取引先例評価方式においては、先例となる取引実例が、売買当事者間においてその価格を正当に認識した上で、純粋な経済行為としてされた場合には、当該取引価格を公正な評価額として採用して差し支えないことは明らかである。
国は、本件会社に対し、平成九年六月一六日、本件相続人らより亡正男の相続に係る相続税の物納として取得した本件株式四万一三〇〇株を、代金四億六八三〇万〇七〇〇円(一株当たり一万一三三九円)で売却した。右売買は、売買当事者間において本件株式一株当たりの適正時価を算定した上でなされたものであり、当該売買価格に影響を及ぼすべき特段の事情は存在しなかった。また、本件会社の類似会社であるダイビルの株式及びサンケイビルの株式の平成三年四月一〇日における市場価格は、それぞれ一四〇〇円及び一二九〇円であり、平成九年六月一六日における市場価格はそれぞれ一四二〇円及び八〇一円であり、変動率は、それぞれ一〇一パーセント及び六二パーセントであり、両社の株式の平均変動率は八二パーセントである。
本件株式の平成九年六月一六日における一株当たりの売買価格一万一三三九円を前記平均変動率で除した一万三八二八円が、平成三年四月一〇日における本件株式の価額であるというべきである。
(三) 鑑定人緒方啓一の鑑定結果(以下「本件鑑定」という。)における価格について
本件鑑定の価格は、純資産価額方式を一部採用していること及び純資産価額方式の適用の中で、以下のとおり、資産勘定から控除すべき金額を控除していない点で、高額に過ぎるものである。
評価基準時である平成三年四月一〇日当時、既に回収不能となっていたマリンシステム研究所に対する貸付金一〇億八四八五万二二一三円とアルファクレストに対する貸付金の一部である九億四二二〇万六九〇〇円との合計額二〇億二七〇五万九一一三円を資産勘定から控除すべきであるのに、この控除をしなかったことは誤りである。
また、亡正男の死亡直後に開催された本件会社の株主総会において、相当額の亡正男に係る死亡退職金の支払が議決されることは、当然予想されていたものであり、現に亡正男に係る死亡退職金として八億七五〇〇万円が支払われているのであるから、純資産価額方式の算定の際、資産勘定から亡正男に係る死亡退職金八億七五〇〇万円を控除しなかったことは誤りである。
(被告)
(一) 類似業種比準方式について
類似業種比準方式を適用することができる会社は、本来、上場会社に匹敵するような規模の会社であり、また、これによる評価が可能である株式は、証券取引所で取引される株式のような会社支配に影響を与えない非支配株式である。ところで、本件会社は、評価通達一七八に定める「大会社」に該当するが、代表取締役に原告妙子、取締役に亡正男、原告宏子及び亡由布子がそれぞれ就任しており、また、本件相続人らは単独では特別企業支配株主(発行済株式総数の三分の二以上を保有する株主をいう。)ではないものの、亡正男から本件株式一四万株を相続等により取得し、亡正男の有していた特別企業支配株主としての地位をそのまま承継したものとみることができるから、本件株式の株価形成要因は、おおむねその保有している資産の価値によるというべきであって、その評価に当たって、類似業種比準方式を適用することは妥当でない。しかも、本件会社は、総資産の約七六パーセントが含み益を有する資産である土地であるところ、評価通達の定める類似業種比準方式は、一株当たりの純資産は簿価ベースで計算することになっており、評価会社の含み益が反映されず、この意味でも本件株式の評価に際し、類似業種比準方式を適用すべきではない。
(二) 類似会社比準方式について
原告らは、株式公開に際して行う最低入札価格算定基準による類似会社比準方式により本件株式の価額を算定するが、類似会社比準方式は、類似会社の選択いかんにより評価額にかなりの差異が生じる等、評価上の恣意性に問題がある上、本件会社は同族株主が支配する閉鎖的会社であって、およそ株式を公開することは考えられない会社であるところ、その株式を、株式公開に際して行う最低入札価格算定基準による類似会社比準方式により評価することは、前提を欠く。
(三) 取引先例方式について
原告らが主張する国から本件会社への本件株式の譲渡は、会社の少数株主が支配株主に対して買取請求権を行使したことによるものであるから、右売買価額は、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額に該当するということはできない。また、本件相続開始から六年以上経過した時点における本件株式の売買事例から比準して本件相続開始時の本件株式の適正な時価を算出すること自体不適切である。
(四) 配当還元法及び収益還元法について
取引相場のない株式の評価方式としては、配当還元法(評価会社の株式の一株当たりの最近数事業年度の年平均配当額又は将来の各事業年度に期待される予測配当額を一定の資本還元率(割引率)で還元し、元本である株式の現在の価額を算出する方式)、収益還元法(評価会社の将来の各事業年度に期待される法人税課税後の利益を、一定の資本還元率(割引率)で還元して、元本である株式の現在の価額を算出する方式)が考えられるが、配当還元法については、還元率や予想配当額の決定に困難が伴うこと、会社の配当政策によって株価が左右されること、株価決定の重要な要素と考えられる純資産、収益等の要素を全く無視することに懸念があり、支配株主の保有する株式の評価方式としては妥当でないというべきであり、収益還元法については、株主の利益と会社の利益を同視するものであること、評価が適正に行われるためには、収益の見通しを確実に把握する必要があるが、これには多くの困難が伴うことから、当該評価方法を採用することは妥当ではないというべきである。
(五) 本件鑑定について
本件鑑定では、本件会社の保有する土地の価格を、便宜上、公示価格の七割程度に評定した相続税評価額に基づいて評価していること、鑑定人において、純資産価額方式を採る場合に法人税額等相当額については純資産価額から控除すべきでないと考えているにもかかわらず、本件鑑定においては、評価差額に対する法人税額等相当額として評価差額の五一パーセントを控除し、減額していること、土地の評価の際に既に加味されている収益性を考慮するために類似業種比準方式を採用していること等の点において、客観的時価の算定方法として問題がある。なお、右法人税額等相当額を控除しなかった場合の一株当たりの鑑定評価額は一四万二五六三円(計算は別紙2のとおり。)となり、被告主張額一三万三八二八円を上回ることとなる。
また、本件鑑定では、本件会社の売上高を還元することにより、一株当たりの還元評価額を計算し、鑑定結果の検算を行っているが、その根拠となる純収益の変動率の根拠が明らかでなく、「地価公示に係る収益還元法の建物等の還元利回り」を利用して検算を行うことは、成熟した手法ではないため、参考資料として利用されるしかないものとされているのであり、当該計算の結果は、中立的立場の者が合理的に予測した場合に予測される最低の価格というべきである。
三 証拠
本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
第四当裁判所の判断
一 本件株式一株当たりの時価の評価方法について
1 相続により取得した財産の価額は、特別の定めがあるものを除き、当該財産の取得の時における時価により評価されるが(法二二条)、右「時価」とは、相続開始時における当該財産の客観的な交換価値、すなわち、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間において自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価格をいうと解すべきである。
もっとも、本件株式のように取引相場のない株式にあっては、そもそも自由な取引市場に投入されておらず、自由な取引を前提とする客観的価格を把握することは困難であるから、法二二条に規定する時価は株式の価額の形成要素を勘案して評価するほかなく、右評価の方法が合理性を有する限り、それによって得られた評価額をもって「時価」と推認することができるものというべきである。
2 ところで、証拠(甲第四号証、本件鑑定)及び弁論の全趣旨によれば、次のとおり認められる。
すなわち、株式の価額を決定する要素としては、事業の種類、将来性、市場占有率、資本系列等もあるが、具体的に数量化して把握することができる要素としては、株式一株当たりの収益(利益)金額、配当金額及び純資産価額の三つが重要な役割を果たしていることから、取引相場のない株式の評価については、右の三要素のいずれかに着目した評価方法がとられており、既に説示した純資産価額方式、配当還元方式のほか収益還元方式が考えられるところである(純資産価額方式における純資産の評定方法には帳簿価額(簿価)によるものと処分価格(時価)によるものがあるが、株式の時価の評定という観点からは、処分価格(時価)によることが合理的と解される。)。また、これらの株式の価額形成要素の個々に着目することなく、事業内容、事業規模、株式の流通性が類似する会社があるときは、その会社の株式価額に比準して株式価格を求める比準方式がある。
これらの各方式には、それぞれ長短があるが、比準方式は、比準するに足りる程に類似する公開会社が存するときは、総合的な評価としては妥当な方式ということができるが、公開会社の株式の価額は、経営と所有の分離を前提とした会社の株式について一般投資家の存在を前提として形成される市場価額であるから、比準方式の妥当性を維持するためには、評価会社の規模が公開会社と同程度であること及び所有と経営が分離していることが必要であろうし、また、市場における株式の価額は、利益又は配当の見込みのみならず、これを前提とした株式の価額の見込みに敏感に反応するものであるから、類似性の判定基準として規模、事業の種類のほかにいかなる要素を取り込むかも問題となるところである。
また収益還元方式、配当還元方式及び純資産価額方式は、いずれも株式の価額形成要素のうちの一要素のみに着目する評価方法であり、他の要素を考慮しないという欠点がある上、収益還元方式は将来収益の評定に難があり、配当還元方式は配当を継続して行っている会社であることが前提となるが、配当の多少は経営方針とも関連するところから、経営に関与し得る株主の株式の価額を評定する方式としては、その客観性が乏しいという難がある。結局、株式が会社資産の持分としての性格を有することからすると、理論上は、純資産価額方式が株式の価額の評価に関する基本的方式であるということができる。もっとも、純資産価額方式は、個々の財貨として評価した価額の合計額を株式総数で除して一株当たりの金額を求めるものであり、事業に供されることによって各資産から生ずる収益を考慮しない欠点があるが、評価会社の事業が順調に遂行され、一般投資効率を超える収益を上げている場合には、事業継続中の企業全体を一体評価した資産の価額は処分価額の合算である純資産価額を超えることが予想されるし、利益が少ないか赤字体質である場合には、処分価額による純資産価額方式がより一層妥当することになるから、純資産価額方式は、少なくとも会社の経営に対し支配的地位を有する株主の保有する株式については、その最低限度の価額を把握する方式ということができる。
3 評価通達は、前記のとおり、評価会社の規模を大、中、小に分から、上場会社に匹敵するような大会社の株式は、上場会社の株式の評価との均衡を図ることが合理的であるので、原則として、類似業種比準方式により評価し、その経営実体において個人企業に近い小会社の株式は、会社経営と所有の分離もなく、株式の流動性も少ないことから純資産価額方式により評価することとし、その中間にある中会社の株式については、大会社の評価方式と小会社の評価方式を併用して評価するものとして、事業規模に応じた原則的評価方式を定めている。また、一部の同族株主により会社の経営がされている場合には、それ以外の従業員株主などが株式を保有する利益は配当への期待にあることを考慮して、これらの同族株主以外の株主については配当還元方式が採用されている。そして、土地は、減価償却資産に属せず、市場価格の変動によって帳簿価格との間に含み益(損)を生ずる固定資産であるから、資産の大部分が土地である土地保有特定会社の株式の価額については、その資産内容が重要な要素となることを否定できないが、会社の事業経営に影響力を有せず、株式保有の利益が単に配当取得にある者も想定されることから、所有する株式の発行済株式数に占める割合によって会社の事業経営に対する支配力の差異を考慮した調整を行い、会社の事業経営に対する影響力を有する同族株主については純資産価額に応じた株式の価額が最低限度の価額を示すものとして、その株式の評価を純資産価額方式によることとしているものということができる。
以上によれば、取引相場のない株式の評価として、評価通達の規定するところは、会社資産の割合的持分という株式の性質に応じた純資産価額方式を基礎として、会社の規模による修正、資産内容による修正及び株式取得者の事業経営への影響力に伴う株式取得利益の大小を考慮したものであり、かかる基準は一般的合理性を有するものであって、土地保有特定会社の同族株主の株式を純資産価額方式により評価することは合理的なものといえる。
なお、評価通達に定める類似業種比準方式においては、類似業種の範囲は大、中、小の三分類を原則とし、本件会社が属する業種目については、「不動産業」という大分類の下に、「不動産賃貸業」、「不動産取引業」及び「その他の不動産業」という中分類がされているに止まり、資産構成による差異(帳簿価額との乖離の可能性の大小)は考慮されていない。また、評価通達に定める純資産価額方式は、時価による純資産評価によるものといえるが、その時価評価額は相続税評価額によるものであり、この価額は、一般的には課税評価の安全性を考慮したものとして時価を下回る水準にあることが推認され、さらに、この純資産価額方式では、資産の処分価額を想定していることから、資産が処分される清算手続における株主の手取分の算定に準じて、簿価との評価差額(清算所得、含み益)に対する法人税額等に相当する金額を控除することとされているが、事業継続を前提として収益事業に供されている土地の現在の時価の評価としては当然に想定上の法人税額等相当額を控除すべきものでもないから、評価通達に定める純資産価額方式により評価された一株当たりの価額は、控えめな評価ということができるのであって、通常の経済状態を前提とする限り、客観的時価を下回り、この金額が法二二条に規定する時価を上回ることがないよう配慮されているということができる。
4 この点につき、原告らは、土地保有特定会社に関する純資産価額方式は、処分利益を目的として土地を保有しているような節税目的で設立、運営されている会社に適用することを想定しているものであり、本件会社のように、保有土地の大半が賃貸用ビルの敷地の用に供された事業用資産であり、容易に売却が予定されるものではなく、会社存続中は事業の用に供し続けることが明白である会社に適用すべきものではなく、本件会社の経営実態に照らせば不動産の賃料収入及び経費が株式の価額の決定要因となるものであり、評価方法としては、同様の業態にある類似会社への比準方式(評価通達では類似業種比準方式)によるべきであると主張する。
しかし、既に説示したとおり、会社の事業経営に対する影響力を有する同族株主が有する土地保有特定会社の株式の評価についての評価通達の定めは合理的であり、その適用を節税目的の土地保有会社に限定する理由はないというべきである。そして、転売を予定しない事業用資産であるとしても、企業が適切な収益を得て継続している以上、資産価値に対応した収益が想定され、評価通達に定める純資産価額方式による評価額は、一般的には事業継続を前提とした資産評価額を超えるものとは解されず、本件において反対に解すべき事情もなく、資産価値に対応した収益が見込まれない場合には、既に賃貸に供されている土地を売却するという経営判断も可能であり、現に賃貸の用に供されている建物及びその底地を事業用資産として取得することも通常の取引として行われており、その場合には既に賃借人がいることは当面の賃料収入が確保されているという点でかえって有利と評価される場合もあると考えられるから、一概に売却が困難であると断定することはできず、評価通達に定める純資産価額方式においては、建物に賃借人がいる場合の不動産価格の算定に当たっては、当該事情を考慮して不動産価格を評価するとされていること(評価通達二六)からすれば、建物賃貸業を主たる目的とする本件会社の資産の評価において純資産価額方式を採用できないという理由はないというべきである。
原告らは、類似会社比準方式あるいは類似業種比準方式による場合には、評価通達に定める純資産価額方式による評価額を下回ることをもって、右評価額を不当であると主張する。しかし、上場会社の株式は、会社の経営と所有の分離を前提として、一般投資家による取引に供されているものである点で、閉鎖会社の支配的な同族株主である原告らの保有する株式とは異なるものであり、市場における株式の価額形成要因としては、事業の将来性、収益又は配当の見込みが重みを有することから、事業用資産である土地価額の高騰に賃貸業による収益、配当が追いつかない場合には、市場における株式の一株当たりの価額が純資産価額に比して低い水準に止まることがあると推測されるのであって、類似会社比準方式あるいは類似業種比準方式による評価額が純資産価額方式による評価額を下回ることをもって、ただちに、純資産価額方式による評価額が不当なものであるということはできない。そして、本件会社が不動産賃貸業を継続している以上、いずれは賃貸物の価値に応じた賃料を取得することを予定して、事業用資産たる土地を保有していたものというほかなく、結果的に、本件相続開始時より後に土地価額が下落し、本件相続開始時における土地価額に見合う賃料増額等の機会がなかったとしても、本件相続開始当時、本件相続人らが有していた本件株式がその純資産価額の割合的価値に満たなかったということはできないのである。
5 前記認定事実によれば、本件会社は、大会社に該当するが、資産の七六パーセントを土地が占める土地保有特定会社に該当し、本件相続開始日現在、発行済株式総数の七〇パーセントを本件相続人らが有しており、本件相続人らは会社経営に影響を有する中心的な同族株主であったから、以上説示したところに照らして、評価通達に定める純資産価額方式により本件株式を評価することは、合理的であるというべきである。
二 本件株式の評価に係る純資産価額方式の適用について
1 固定資産税・都市計画税について
前記争いのない事実等によれば、本件会社の平成三年四月一〇日現在の未納固定資産税及び都市計画税は合計二億八二七九万七〇〇〇円であることが認められるところ、被告の採用した純資産価額方式の適用に当たっては、評価時点以前に賦課期日のあった右固定資産税及び都市計画税の合計二億八二七九万七〇〇〇円を未納公租公課として負債の部に計上すべきとされているから、本件株式の評価に当たっても、右金額を負債の部に計上すべきである。
したがって、本件株式の評価に係る純資産価額方式には、右の点についての違法がある。
2 貸倒債権にいて
原告は、マリンシステム研究所及びアルファクレストに対して有する債権の一部が回収不能であり、右回収不能金額を控除すべきであるとするが、その根拠とするところは、要するに、本件相続開始日(平成三年四月一〇日)の後の事情に照らせば、本件相続開始日においても、右各債権は、回収不能であり、貸倒債権であったと評価すべきであるとするところにある。
ところで、金銭債権については、債権者に債権を回収する意思があり、債務者にこれに応ずる意思があれば、破産等によって弁済が禁止されたものでない限り、債務者に十分な資力がなくても、直ちに、債権の回収が不可能となるものではないところ、原告らの主張によっても、本件相続開始日当時、右各債権は本件会社の貸付金に計上されていたというのであり、また、それ以前にマリンシステム研究所又はアルファクレストが、右各債権の回収に応じる意思がないことを明確にしたというものでもないから、右各債権が本件相続開始日現在において貸倒債権に該当するとする原告らの主張は失当というべきである。
3 本件株式一株当たりの価額について
右によれば、評価通達に定める純資産価額方式により算定した本件株式一株当たりの価額について、被告がした評価は別表9のⅠ中負債の部に未払の固定資産税額及び都市計画税額合計二億八二七九万七〇〇〇円が欠けていた点を除き、その根拠及び算出方法に誤りはないと認められる。そこで、右未払の固定資産税額及び都市計画税額を負債の部に加えて、同様の方法により本件株式の一株当たりの価額を算出すると、別表10記載のとおり、本件株式の課税時期現在の一株当たりの純資産価額は、一三万二四一四円(別表10のⅢ記載<11>の金額)となるので、右金額が本件株式の一株当たりの価額であると認められる。
4 本件株式一株当たりの時価資料について
(一) 類似業種比準方式及び類似会社比準方式について
本件相続人らが取得した本件株式の一株当たりの価額として、類似業種比準方式又は類似会社比準方式よりも純資産価額方式が適切であることは既に説示したとおりである。
(二) 取引先例方式について
証拠(乙第五号証)によれば、原告らが先例として主張する譲渡は、株式の譲渡が制限された後に、会社の少数株主が支配株主に対して買取請求権を行使したことによるものであり、右売買価額は、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額に該当するということはできないから、右取引事例を支配株式である本件株式の価額を算出する際の取引先例とすることは、その基礎を欠くというべきである。
また、本件相続開始は平成三年四月であるところ、その後、六年以上経過した平成九年六月における本件株式の売買事例から比準して本件相続開始時の本件株式の適正な時価を算出すること自体不適切である。
(三) 本件鑑定について
本件鑑定では、配当と値上り益を期待して投資する一般投資家の保有する株式にしか適用できない類似業種比準方式は特別企業支配株主の保有する株式である本件株式の評価に適切でないとしつつ、純資産価額方式のみによることなく収益価値を考慮すべきであるとの立場に立ち、収益還元法の客観性に問題があるとして、これに代えて類似業種比準方式を利用し、結局、純資産価額方式と類似業種比準方式との評価額をそれぞれ等しい割合で加重平均した価額をもって鑑定価額としている。
取引相場のない株式の評価においては、さまざまな価額形成要素が影響し合うことは既に説示したとおりであるから、純資産価額方式のみによらず、収益への考慮を必要としたことは、一つの専門的、合理的判断ということができる。
しかし、証拠(証人緒方啓一)によれば、本件鑑定における鑑定評価は、評価の曖昧な部分については国家(課税庁)側が譲歩するという設定において、課税関係を前提とした法二二条に基づく相続税評価額を評価したものであることが認められるところ、右事実に照らせば、本件鑑定は、理論的に算定される適正時価を鑑定したものではないことは明らかであるから、法二二条の解釈としての意見としては意味があるものとしても、国家(課税庁)側が譲歩するものとして控えめに定められた評価通達による評価が適正な「時価」を超えるかどうかを検証する資料となるものではない。また、類似業種比準方式を収益考慮の方法として併用するにしても、配当と値上り益を期待して投資される一般投資家の保有する株式にしか適用できないこの方式による評価の割合を純資産価額方式と等しく扱う根拠は明らかでなく、また、継続会社の株式の時価の評定においては、評価通達に定める純資産価額方式における評価差額に対する法人税額等に相当する額の全部を控除する必要性について疑義があることは既に説示したとおりであり、鑑定人もこれを不要とするのであるから(右法人税額を控除しなかった場合の本件株式一株当たりの鑑定評価額は一四万二五六三円(計算は別紙2のとおり。)となる。)、本件鑑定における評価額をもって、本件各処分における本件株式の評価を違法とすることはできないというべきである。
三 本件相続に係る本件相続人らの相続税の課税価格、納付すべき税額、過少申告加算税額
前記二、3において算定された本件株式の評価額を前提として、前記第二、三、3(一)、(二)記載の計算方法により本件相続に係る本件相続人らの相続税の課税価格、納付すべき税額、過少申告加算税額を算定すると本件株式の評価額を前記二、3記載のとおりと認定したことに伴い、被告の算出根拠を示す別表4ないし8が別表11ないし15のとおり修正されることになり、課税価格の合計額が二三四億九二九八万円(通則法一一八条一項に基づき一〇〇〇円未満の端数を切り捨てたもの。別表11順号17)、原告妙子の本件相続に係る相続税の課税価格は一四一億六〇一四万九〇〇〇円、亡由布子の本件相続に係る相続税の課税価格は四七億一三二七万五〇〇〇円、原告宏子の本件相続に係る相続税の課税価格は四六億一九五五万六〇〇〇円となり(別表11順号17)、本件相続人らの納付すべき相続税額は、原告妙子については一六億六三三二万一六〇〇円、亡由布子については三二億四七九八万八二〇〇円、原告宏子については三一億三一二三万八三〇〇円となる(別表11順号21)。
また、本件相続人らに対して課すべき過少申告加算税額は、原告妙子については、本件相続に係る相続税の課税価格及び納付すべき税額を過少に申告しており、過少に申告したことについて通則法六五条四項に規定する正当な理由も存しないと認められるから、右認定に係る納付すべき相続税額を前提として算出される新たに納付すべき税額一四億五六九九万円(通則法一一八条三項の規定により一万円未満の端数を切り捨てた後のもの。)に通則法六五条一項の規定により、一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出した一億四五六九万九〇〇〇円と、同条二項の規定により原告妙子の期限内申告税額を超える部分に相当する税額一四億五六九九万円(通則法一一八条三項の規定により一万円未満の端数を切り捨てた後のもの。)に一〇〇分の五の割合を乗じて算出した七二八四万九五〇〇円を合算した二億一八五四万八五〇〇円となり、亡由布子については、同様に新たに納付すべき税額一九億八六四一万円(通則法一一八条三項の規定により一万円未満の端数を切り捨てた後のもの。)に通則法六五条一項の規定により、一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出した一億九八六四万一〇〇〇円と、同条二項の規定により亡由布子の期限内申告税額を超える部分に相当する税額九億三三五八万円(通則法一一八条三項の規定により一万円未満の端数を切り捨てた後のもの。)に一〇〇分の五の割合を乗じて算出した四六六七万九〇〇〇円を合算した二億四五三二万円となり、原告宏子については、同様に新たに納付すべき税額一九億八一二二万円(通則法一一八条三項の規定により一万円未満の端数を切り捨てた後のもの。)に通則法六五条一項の規定により、一〇〇分の一〇の割合を乗じて算出した一億九八一二万二〇〇〇円と、同条二項の規定により原告宏子の期限内申告税額を超える部分に相当する税額八億三四九六万円(通則法一一八条三項の規定により一万円未満の端数を切り捨てた後のもの。)に一〇〇分の五の割合を乗じて算出した四一七四万八〇〇〇円を合算した二億三九八七万円となる。
第五結論
以上によれば、本件各処分には、本件株式の評価につき、本件会社の未納固定資産税及び都市計画税を控除しないで過大に評価した違法があるので、原告らの本訴請求は、その限度で理由があるから認容し、その余はいずれも理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六四条本文、六五条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 富越和厚 裁判官 團藤丈士 裁判官 水谷里枝子)
別表1
本件課税処分等の経緯(原告北内妙子)
<省略>
別表2
本件課税処分等の経緯(北内由布子)
<省略>
別表3
本件課税処分等の経緯(原告網谷宏子)
<省略>
別表4
課税価格等の計算明細表
<省略>
別表5
純資産価額に加算される贈与財産の価額
<省略>
別表6
附則19条3項適用前の税額算出表
<省略>
別表7
配偶者に対する相続税額の軽減の計算明細表
<省略>
別表8
附則19条3項の規定を適用した場合の税額等の計算(原告網谷宏子)
<省略>
旧措置法69条の4の適用の対象となっている土地の明細
<省略>
別表9
1株当たりの純資産価額の計算
<省略>
別表10
1株当たりの純資産価額の計算
<省略>
別表11
課税価格等の計算明細表
<省略>
別表12
純資産価額に加算される贈与財産等の価額の明細
<省略>
別表13
税額算出表
<省略>
別表14
配偶者に対する相続税額の軽減の計算明細表
<省略>
別表15
附則19条3項の規定を適用した場合の税額等の計算(原告網谷宏子)
<省略>
旧措置法69条の4の適用の対象となっている土地の明細
<省略>
別紙1
<省略>
別紙2
法人税額等相当額を控除しなかった場合の計算
相続税評価額による純資産価額 53,077,560千円・・・・<1>
課税時期現在の発行済株式数 200,000万株・・・・<2>
一株当たりの純資産価額(<1>÷<2>) 265,387円
類似業種比準価額 19,739円
一株当たりの純資産価額×0.5+類似業種比準価額×0.5
=265,387円×0.5+19,739円×0.5
=142,563円
一株当たりの純資産価額の計算上、法人税額等相当
額を控除しなかった場合の一株当たりの鑑定評価額 142,563円